26

Dec

「ルンバ」に何が起きたのか?――吸引力5倍、清掃能力50%向上の秘密:滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(1/3 ページ)

2月18日に発表された「ルンバ 800シリーズ」。3年ぶりの上位モデルは、掃除機の命ともいえる吸引システムを全く新しいアプローチで作り直し、大きな進化を遂げた。ロボット掃除機という市場を作り出し、今もトップに君臨しているにも関わらず、iRobotが大胆な決断をした理由は何か。ルンバ開発の中心人物の1人、米iRobotのジェリー・キャロン氏を直撃した。

米iRobotのジェリー・キャロン氏

キャロン氏はまず、iRobotのR&Dについて話してくれた。「iRobotには、世界トップクラスのロボットシステムを作れるエンジニアたちがいます。オフィスに来ると分かりますが、大勢のエンジニアがいくつものグループに分かれ、さまざまなロボットを作っています。例えば、今われわれがとくに注目しているのがマニピュレーターという、指で操作させるような動きをするロボット。コインを拾ったり、ドアノブをひねってドアを開けたりする動きができます。一方、ルンバはそれとは対極にあるもので、いかに床をきれいにするか、シンプルに追求しています」。

では、そのような環境の中で、新しい吸引機構「AeroForceクリーニングシステム」はどのようにして生まれたのか。

「ルンバ」に何が起きたのか?――吸引力5倍、清掃能力50%向上の秘密:滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(1/3 ページ)

「ある日、チームのリーダー的存在であるエンジニアが、床のうえにあるゴミを取り除く、思いも寄らぬ方法を思いつきました。それが今回の吸引システムである『AeroForceクリーニングシステム』のベースとなった技術だったのですが、実際に効果を検証してみたところ、驚くほどの清掃能力の数値を示したため、これは本当に革新的な方法だと分かりました。そこから開発を重ね、7年の歳月をかけ、ようやく完成しました」。

ルンバ800シリーズの裏側を見ると、ブラシではなく、「AeroForceエクストラクター」と呼ばれるローラーが付いている。キャロン氏によると、これが「AeroForceクリーニングシステム」における、「もっとも革新性の高い部分」(同氏)だという。

ゴミを本体にかきこむためのローラー「AeroForce(エアロフォース)エクストラクター」。それぞれが床を叩きながらゴミを浮かせ、外側から内側に回転し、ゴミをかきあげる仕組みだ

「通常、掃除機のブラシというものは、長い髪の毛などが一度絡んでしまうと手でしっかり取り除いてあげないと、だんだんと掃除能力が落ちていくものでる。ただ、これらを手でわざわざ取り去るというのは、かなり手間隙の掛かる作業でした。この『AeroForceエクストラクター』は、特殊なゴム素材にフレッジと呼ばれる溝を刻んだり、毛の代わりに、破線状や実線状の凸部をつけることで、長い髪などが一切絡まないという仕組みです」。

また、表面の凹凸、柔軟な素材にもそれぞれ意味があるという。

「凸部分は高さがまちまちです。低いのがあったり、繋がっているものも破線状のものもありますが、真ん中を中心にV字形になってます。これらのパターンを実に何十通りものパターンを作っては試行錯誤、検証を重ねてこの形に辿りつきました。一方、素材もいろいろなものを試しました。このローラーにはある程度弾性を持たせているのですが、逆にどの程度まで硬くするかも非常に気を使う問題です。でも、おかげで回転することで床面をはきながら、大きなゴミは2つのローラーでしっかりと“つかみ、引っこ抜く”といったことも可能になりました。また、なぜこのV字形という形態を取ったかというと、端のほうにゴミがひっかかってくると、どんどん回ってくる間に中央へと集まり、最終的に内側へ吸い取られていくのです」。

表面の凹凸、柔軟な素材にも意味がある

もう1つ、最適化をはかったのがロール間の距離だ。「実は700シリーズのブラシと比べ、2本のローラーは非常に狭い距離で並んでいます。また、吸い込み口が狭いので吸い込む際に空気がより加速します。まるでホースの水を指で入り口を抑えると、水の勢いが一気に強まるように、空気の流入速度を早めます」。

ただ、もちろん回転ブラシが変わっただけで清掃能力が150%アップするとは考えにくい。さらに進化した部分があるはずだ。

モーターも改良、ダストボックスは拡大1|2|3次のページへ