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殺虫剤でのゴキブリ退治はゴキブリを強くするだけ、米研究

市販殺虫剤が効きにくくなっている、求められる駆除方法とは

無毒性で害虫駆除効果がある珪藻土(けいそうど)を家庭菜園にまく園芸家。堆積岩を粉砕した珪藻土は、昆虫を脱水状態にして駆除することができる。(PHOTOGRAPH BY HELIN LOIK-TOMSON, GETTY IMAGES)

 殺虫剤でのゴキブリ退治はゴキブリを強くするだけ、米研究

不快なゴキブリの出没には、多くの人が悩まされている。ゴキブリ退治がこれほど難しいのには、相応の理由があることがわかってきた。一部のチャバネゴキブリ(Blattella germanica)が、殺虫剤に対する抵抗性(耐性)を獲得していることを示す研究成果が集まりつつあるのだ。【動画】ゴキブリをゾンビ化する寄生バチをキックで防御 たとえば学術誌「Journal of Economic Entomology」に2021年12月に発表された論文によると、米国カリフォルニア州の集合住宅で採集したチャバネゴキブリには、よく使われている5種類の殺虫剤に対し生き残るものがいた。 チャバネゴキブリは、少なくとも11種類のアレルギー誘発物質と関係があるうえ、サルモネラ菌などの細菌をまん延させることもある。人間の健康に関わるため今回の結果は懸念されると、この論文の筆頭著者でカリフォルニア大学リバーサイド校の都市昆虫学教授チョウヤン・リー氏は語る。さらに、ゴキブリの出没がもたらすストレスで、心の健康も損なわれるリスクがある。 他のゴキブリも住宅に侵入することはあるが、チャバネゴキブリは群を抜いて問題が多いと、リー氏は指摘する。チャバネゴキブリの原産地はアフリカか東南アジアかで学説が分かれているが、いずれにしても、このたくましいゴキブリは外国への貨物輸送に伴って世界中に広がり、今では世界で最も一般的なゴキブリとなっている(1770年代、スウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネが、ドイツから郵便でこの昆虫のサンプルを受け取ったことからBlattella germanicaと命名した)。 世界では4500種を超えるゴキブリが確認されているが、「殺虫剤への抵抗性を発達させられることが確認されたのは、チャバネゴキブリだけです」とリー氏は言う。人間が害虫の進化を促している一例といえるだろう。

殺虫剤を使うほどゴキブリが強くなる悪循環

リー氏のチームは、カリフォルニア州南部の4つの都市に生息するチャバネゴキブリが、ジェル型ベイト剤(毒えさ)にどのように反応するかを調べた。ジェル型ベイト剤は、米国で害虫駆除に最も多く使用されているタイプの市販の殺虫剤だ。 まず、ロサンゼルス、サンディエゴ、ビスタ、サンノゼの公営共同住宅から数百匹のゴキブリを集めた。その大半は掃除機で、一部はわなを使って採集された。リー氏によれば、調査対象地域の住民は、経済的な理由から、業者に駆除作業を依頼するよりも市販の殺虫剤を使う傾向がある。 だが、この傾向が悪循環を生んでいる。殺虫剤の使用量が増えると、抵抗性を持つゴキブリが生き残って繁殖する機会が増え、さらに抵抗性が高いゴキブリの世代が生まれるからだ。 リー氏は、この悪循環を「殺虫剤抵抗性のネバーエンディング・ストーリー(果てしない物語)」と呼んでいる。 研究チームは、捕獲したゴキブリを研究室に持ち帰り、6種類の殺虫成分それぞれにゴキブリを曝露させる実験を行った。さらに対照群として、研究室で飼育された、これまで殺虫剤にさらされたことのないチャバネゴキブリ数十匹に対しても、同じ殺虫成分の曝露を行った。 対照群のゴキブリは、殺虫成分にさらされるとすぐに死んでしまった。しかし、住宅で捕獲したゴキブリは、6種類のうち5つの成分で死亡率が低いか中程度だった。殺虫成分アバメクチンは強い殺虫効果を発揮した。 ただし、2019年に学術誌「Scientific Reports」に発表された別の研究では、わずか2世代または1年のうちに、アバメクチンへの抵抗性が高いゴキブリが生まれたことが確認されている。 今回の論文の共著者で、リー氏の研究室に所属する博士課程の学生シャオハン・デニス・リー氏は、殺虫成分の多くが神経系など特定の部位をターゲットとしていると説明する。「つまり、抵抗性があるゴキブリの多くは、ターゲットとなる部位に(遺伝子の)変異があるため、殺虫成分の影響を受けにくいのです」 屋内で殺虫剤を使用すると、人間にも被害が及ぶことがある。米環境保護局(EPA)によると、米国の家庭に「まん延」している殺虫剤の残留成分は、頭痛、めまい、吐き気をもたらすだけでなく、がんの発症リスク増大の原因にもなりかねないという。